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Comix discomix / Lio 解説(3)



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3.「シルダビアのエトワール夫婦」と「スピルー」について

 <2番Bメロの歌詞原文と筆者訳>
 Stilletos sur plexiglas stridence
 Un couple d'étoiles de Syldavie
 A New York lancent la dissidanse
 Un ballet que j'applaudis ravie
 スティレット、プレキスグラスに カチン
 シルダビアの エトワール夫婦が
 ニューヨークで 反旗を翻す
 あざやかバレエに 私は喝采

Syldavie(シルダビア)とは「タンタンの冒険」シリーズに何度も登場する架空の王国で、東欧にある設定になっています。


(シルダビアの紙幣)

それでは、un couple d'étoiles de Syldavie(直訳:シルダビアの星の夫婦)とは、一体何者でしょうか?もちろんタンタン・ワールドには、該当する人物は存在しません。

そこで、1979年の現実世界の出来事を調べてみたところ、「ニューヨーク」と「バレエ」というキーワードから、一組のカップルが浮かび上がってきました。

ソ連(当時)のボリショイ・バレエ団で花形ダンサー(フランス語では「エトワール(星)」と呼びます)として活躍していたアレクサンドル・ゴドゥノフと、同じバレエ団でソリストを務めていたリュドミラ・ウラソワです。


(左: アレクサンドル・ゴドゥフ、右: リュドミラ・ウラソワ)

ふたりはこの年の8月、ボリショイの北米ツアーでニューヨークに滞在していました。ところが突然、夫のアレクサンドルが失踪し、そのまま21日に亡命してしまいます。

これを知ったソ連当局は、妻のリュドミラを緊急帰国させるべく、彼女を急遽モスクワ行きのアエロフロート機に搭乗させました。が、米国務省は離陸許可を出しません。

アレクサンドルからの懇願を受け、リュドミラが本当に自ら望んで帰国しようとしているのか確認を求めたためです。かくして飛行機は彼女を乗せたまま、ケネディ空港に足止めされる事となりました。

カーター米大統領とブレジネフ・ソ連書記長まで巻き込む外交問題にまで発展したこの騒動は(ちなみに、フランス語の ballet には「政治的駆け引き」の意味もあります)、3日後に意外な結末を迎えます。

米政府のネゴシエーターが機内でリュドミラと20分間の会見を行ない、その帰国の意思が堅い事を確認したのです。後に判明したところでは、彼女は病気の母親を祖国に残したまま亡命する事を望まなかったのだとか。

こうしてリュドミラを乗せたアエロフロート機はモスクワへ飛び立ち、以来、彼女とアレクサンドルが再び会うことはありませんでした。

密かにケネディ空港を訪ね、飛行機の窓越しにひと目でも妻の姿を垣間見ようと、土砂降りの中を一晩中滑走路に佇んでいたアレクサンドルは、この結末に泣き崩れたといいます。

「ニューヨークで 反旗を翻す」エトワール夫婦は、何と反旗を、それぞれ別のターゲットに向けて翻していたのですね。夫は祖国に、妻は夫とその亡命先に…。(^^;

歌詞の Stilletos sur plexiglas stridence(スティレット、プレキスグラスに カチン)というのは、実は今でも謎のフレーズなのですが(ご存知の方がおられましたら、ぜひご一報を!)、もしかするとリュドミラが、スティレットシューズ(パンプス)で、プレキシグラス(プラスチック)の国アメリカに蹴りを入れたという意味なのかも知れません。

ちなみに王国であるはずの「シルダビア」が、歌詞ではソ連の暗喩として登場するのは、やはり「東欧」にあるという事と、タンタンの作者エルジェが幾つかの社会主義国家のイメージを統合して、この国を創造していたためではないかと思います。

何たって、国名の Syldavie はルーマニアの「トランシルバニア(Transylvanie)」地方と、ルーマニアに隣接する「モルドバ(Moldavie)」共和国(旧ソ連)の合成、国旗はアルバニア国旗の双頭の鷲をペリカンに変え、背景色を赤から黄色に変えたデザインですからね。


(左: シルダビア国旗、右: 1979 年当時のアルバニア国旗)

さて、この元夫婦のその後はというと、アレクサンドルはアメリカン・バレエ・シアターを経て俳優に転向し、「マネーピット」や「ダイ・ハード」などの映画に出演しますが、1995年に死去。リュドミラはバレエを引退後、アイスダンスの振付師となり 2014 年の現在も現役で活躍しています。

 <3番Bメロの歌詞原文と筆者訳>
 Je reste seule dans la chambre 13
 Un ennui grand comme un living room
 Si je commande un autre lait fraise
 Je verrai Spirou le joli groom
 ひとりで泊まる 13号室
 リビングルーム・サイズの退屈
 イチゴミルクの おかわり頼めば
 綺麗なボーイの スピルーに逢える

Spirou (スピルー) は、これまたベルギーの人気コミックス「スピルーとファンタジオ」の主人公で、フランス語圏では一時期、タンタンのライバル的存在でした。衣装からわかる通り、元々はホテルのベルボーイという設定だったのですが、その後タンタン同様、少年ジャーナリストとして様々な冒険に関わってゆきます。


(左: 「スピルーとファンタジオ」表紙、右: スピルー)

<参考資料>
A Soviet Ballet Star Gains a New Country and Career, but Loses His Troubled Wife(People 誌 1979年9月10日号のアーカイブより)

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