Méfie-toi / Mylène Farmer 解説(2)



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2.「能天使(パワー)」と「力(フォース)」について

 <サビ前半の歌詞原文と筆者訳>
 Méfie-toi des Puissances
 Méfie-toi de l'aisance
 Au jeu du corps à corps
 L'esprit est bien plus fort
 Méfie-toi des Puissances
 Des vierges sans défense
 Leurs forces sont subtiles
 La force est féminine
 気をつけて あなたも 能天使(パワー)には
 気をつけて あなたも 安直な
 身体から 身体の 遊びには
 精神なら もっと 強いはず
 気をつけて あなたも 能天使(パワー)には
 自らを 守れぬ 処女たちの
 彼女らの 力は 微妙なの
 力(フォース)とは 女性が 化身だから

この歌のサビには「パワー」と「フォース」という、一見よく似た意味の単語が並んで登場するのですが、意味はまったく異なります。

L'amour naissant にも登場する、大文字で始まる Puissances は、キリスト教用語で「能天使」。天使と悪魔の戦いの、最前線で戦う天使の事です。

英語名の「パワー(ズ)」が示す通り、彼らはとても強力な軍団なのですが、最前線ゆえに悪魔に誘惑されやすいという困った一面も持っています。

そんな事から、この歌や L'amour naissant では、「一時の激情」という、「イナモラメント」の一面を示す言葉として使われているようですね。これがミレーヌのオリジナル発想なのか、フランチェスコ・アルベローニからの引用なのかは不明ですが…。

これに対して force(力) は、本能や欲望をコントロールする精神力の事。こちらは由来がはっきりしていて、タロット占いからの引用でした。


(タロットカードの「力」。ウェイト版による)

タロットカードの「力」には普通、「ライオンを従えた処女」が描かれ、「ライオン」は自然の状態 (本能や欲望など)、「処女」はそれを抑制する意志の力を象徴しているのです。1番のAメロの歌詞に patience(忍耐) や tenace(辛抱強い) が登場するのは、そのためですね。

 <1番Aメロの一部(歌詞原文と筆者訳)>
 Mon Q.I. est tenace
 Ma patience : un état
 私のIQは 辛抱強く
 耐え続けてる ある状態に

また、La force est féminine(直訳:力は女性) というフレーズは、フランス語の force が女性名詞である事とタロットカードの「力」が女性の姿に描かれている事に引っかけ、父王の死後すぐに再婚しちゃった母親にあきれるハムレットばりに、「弱き者よ、汝の名は女」と言っているのではないでしょうか?

ちなみに、この「力」を含む、大きな絵の描かれた22枚のカードを、タロットでは大アルカナと呼びます。この大アルカナには 1 から 21 までの通し番号が振られ(「愚者」のカードのみ番号なし)、「何番目の大アルカナ」という言い方をするのです。

 <サビ後半の歌詞原文と筆者訳>
 Et quand l'esprit, frappe
 C'est un fouet qui, claque
 Méfie-toi quand même
 C'est la onzième, lame
 Majeur est, l'arcane
 Vierge Iconoclaste
 Dieu, que l'icône est classe: 5,4,3,2
 精神は、打つわ
 鞭と化し、ピシリと
 気をつけて あなた それでも
 11の、カード
 大アルカナでも
 処女ならば 聖像破壊者(イコノクラスト)
 おお神よ、もう聖像は終わり(ク・リコネ・クラス):5,4,3,2

歌詞の Méfie-toi quand même / C'est l'onzième lâme / Majeur est l'arcane は、それを踏まえた表現。直訳は、「それでも気をつけなさい。/それが11番目の札であろうと/アルカナが大きかろうと」です。

要は「11番目の大アルカナが切り札でも、気をつけなきゃだめ」って事ですね。では、11番目の大アルカナが何かというと…。

実はタロットの種類によって異なるのです。現在一般に流布しているタロットカードには、ウエイト版とマルセイユ版の2種類があり、両者は 8 番目の大アルカナと 11 番目の大アルカナが逆転しているのですよ。

フランスでは歴史の古いマルセイユ版の方がポピュラーだそうなので、ここではマルセイユ版の 11 番目の大アルカナという解釈を取りましょう。正解は(もうおわかりでしょうけど、)「力」でした。


(タロットカードの「力」。マルセイユ版による)

※なお、ウエイト版では「正義」が 11 番目です。


(タロットカードの「正義」。ウェイト版による)

総合すると、サビのフレーズでヒロインが言いたかったのは、「生娘よ、己を過信するなかれ。欲望をコントロールする術を心得ていると思っていても、あなたの精神力は脆いのだから」。

彼女は自分の経験から、「年頃の娘は、早く捨てたがってる」と考えているのです。でなければどうして、Verge iconoclaste(直訳:聖像破壊の処女)なんて言葉が出てきましょうや?

ちなみに icône (聖画像)には聖母子像が付き物ですから、ここで言う「処女」には、聖母マリアのイメージが投影されていると見て間違いありません。「ヴァージニティは神聖よ」なんて、ミレーヌの言葉とは思えない気がしますけど…(笑)。

かくして「自らを 守れぬ 処女たち」は、que l'icône est classe(その聖像は "クラス" だ!) という状態になるのです。

この場合の classe は「終わり」を表す口語表現。そう考えないと、その直後の「5、4、3、2…」というカウントダウンが意味不明になってしまいます。ピンクレディー風に言うと、「今日もまた誰か、乙女のピンチ」ってとこですね(笑)。

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