Je te rends ton amour / Mylène Farmer 解説(2)



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1.「ゴーギャン」と「シーレ」について(その2)

 <1番Bメロ後半の歌詞原文と筆者訳>
 Tu voyais l'âme
 Mais j'ai vu ta main
 Choisir Gauguin
 あなたは 魂見てた
 けれども その手は今
 ゴーギャンを 選んでた

 <2番サビの歌詞原文と筆者訳>
 Et je te rends ton amour
 Au moins pour toujours
 Je te rends ton amour
 Le mien est trop lourd
 だから あなたに愛を返そう
 少なくとも 永久に
 あなたに愛を返そう
 私の愛は 重すぎる

エゴン・シーレとポール・ゴーギャンが最も対照的だったのは、その交友関係でした。シーレはグスタフ・クリムト (1862-1918) と、ゴーギャンはフィンセント・ヴァン・ゴッホ (1853-1890) と、それぞれ交流があったのですが、この2つの友情は、まるで正反対の結末を迎えたのです。

シーレとクリムトが初めて会ったのは、1907 年のウィーン。17 才のシーレはこの年初めてアトリエを構えるのですが、ある日そこへ当時ウィーン画壇の重鎮だった 45 才のクリムトが訪ねてきたのです。何でもクリムトは新しい才能の発掘に力を入れていて、しばしば自分が注目する新人画家を訪問しては激励していたのだとか。シーレも、最初はそうした画家の1人だったんですね。


(左:エゴン・シーレ 右:グスタフ・クリムト)

ところが、年齢もキャリアもまるでかけ離れていたこの2人は妙にウマが合い、その後も親密な交際を続けました。恐らくシーレが 15 才で父を亡くし、少々ファザコン気味だった事も影響しているのでしょう。

ちなみにシーレが妻のエディットと知り合う前に、彼の恋人兼モデルだったヴァリ・ノイツェルは、元々クリムトのモデルだったのをシーレが譲り受けたのだそうです。


(左:シーレ「ヴァリ・ノイツェルの肖像」 右:クリムト「ヴァリの肖像」[現在は焼失])

結局、彼らの友情は 1918 年 2 月 10 日に、クリムトが脳梗塞と肺炎により他界するまで続きます。そして、クリムトの死を看取ったシーレも同年スペイン風邪をこじらせ、10 月 31 日、まるで後を追うかのように亡くなるのでした。


(シーレ「クリムトのデスマスク」)

一方、ゴーギャンとゴッホが知り合ったのは、1886 年のパリ。ともに正規の作画教育を受けていない素人画家として出発したこの2人は、この年、同じ絵画学校に通い始めたのです。彼らはその後も、当時パリの貧乏画家のパトロン的存在だったタンギー爺さんの画材店で、しばしば顔を合わせる間柄でした。


(左:ポール・ゴーギャン 右:フィンセント・ヴァン・ゴッホ[の自画像])

やがて 1888 年に南仏アルルへ移り住んだゴッホは、その地に画家仲間のコミューンを築く事を夢見、最初のメンバーとして、かねてから敬愛していたゴーギャンを招きました。その頃アルルで、ゴーギャンがゴッホを、ゴッホがゴーギャンを、それぞれモデルにして描いた絵が今に残っています。


(左:ゴッホ「赤いベレー帽の男」 右:ゴーギャン「ひまわりを描くゴッホ」)

けれども、お互いの個性が強すぎたのでしょうか?2人の共同生活は、わずか2ヶ月 (10 月 23 日~12 月 23 日) で破綻してしまいます。パリへ戻ろうとするゴーギャンを引き止めようと、ゴッホは文字通りの半狂乱になりました。そして、とうとう発作的に自分の左耳下部を切り落とし、精神病院に収容されたのです。

gogh3.jpg
(ゴッホ「耳を切った自画像」)

ミレーヌは、この2つの交友関係を踏まえて1番Bメロ後半の

 Tu voyais l'âme
 Mais j'ai vu ta main
 Choisir Gauguin
 あなたはかつて、魂を見ていた
 でも私は、あなたの手が
 ゴーギャンを選ぶのを見た(直訳)

の3行を書いたと思われます。つまり、「最初あなたはクリムトで、あなたに見出された私はシーレだった。なのにあなたは今ゴーギャンたる事を選び、私をゴッホとして見捨てようとしている」って事ですね。

さらに「私」に擬せられているシーレが、その神経質な描線で「精神(=魂)」を表現したと評されている事から考えると、先頭の行は「昔、私とあなたは、同じ物(=魂)を見ていた」という意味になるのではないでしょうか?

反対にゴーギャンを愛し過ぎたゴッホの姿を彷彿とさせるのが、2番サビの Le mien est trop lourd(直訳:私のそれ[=愛]は重過ぎる)。

だからこそヒロインは、「最後の手段」として「あなたに愛を返そう」と決意しなければならなかったわけです。さもなかったら、耳なんか切り落としそうでしょ? (笑)

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