Agnus dei / Mylène Farmer 解説(1)



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1.「神の小羊」について

 <1~2番の歌詞原文と筆者訳>
 De mutilation
 En soustraction
 Agnus dei
 Te voir en chair
 J'en perds la tête
 切断から
 放血まで
 神の小羊
 生身の貴方を見て
 私は理性(あたま)失くす

 De mutilation
 En convulsion
 Te voir ici
 Quelle hérésie
 Les bras m'en tombent
 切断から
 痙攣(けいれん)まで
 ここで貴方に
 遭うとは何と異端
 私の肩が落ちる


(神の小羊のステンドグラス)

この歌の舞台は、おそらくカトリックの教会。主人公はミサに出席しているのです。

ミサというと、私のような非キリスト教徒は、ついついクリスマスや結婚式や黒ミサなど、特別な場合を想像してしまうのですけど(いや、最後のは違うか…)、これは信徒には不可欠の儀式で、フランスで信者の多いカトリックの場合、基本的に毎日行なわれているのだそうです。

ミサの目的は、キリストの受難と復活を記念する事。そのため、信者には「聖体拝領」といって、キリストの身体を象徴するパンが配られます。いわゆる「最後の晩餐」の場面(新約聖書「ルカによる福音書」22章19~20節、「コリント人への第一の手紙」11章23~26節 etc.)を再現しているのですね。

この聖体拝領用のパンは、現在ではホスチアというウェファス状のものを使いますが、大昔は普通のパンをミサの参加者の人数分に切り分けていました。


(ホスチア)

そのため、ミサが大規模になると準備に時間がかかり、せっかくの宗教的な雰囲気が間延びしてしまう事もあったのだそうです。

そこで一計を案じたのが、7世紀末の第84代ローマ法王セルギウス一世(法王在位:687-701)。彼は聖体拝領の前に聖歌を歌わせ、厳かなムードをキープしつつ時間を稼ぐ事を考えました。


(聖セルギウス一世)

実は、その聖歌こそが、「アニュス・デイ(別名:平和の賛歌)」なのです。

聖歌「アニュス・デイ」の歌詞は、パブテズマのヨハネが初めてイエスを見た時に発した言葉、「見よ、世の罪を取り除く神の小羊だ」(「ヨハネによる福音書」1章29節)から取られました。

ここで言う「神の小羊」とは、ユダヤ教の過ぎ越しの祭りで生贄に捧げられる小羊の事。ヨハネはこの言葉により、イエスが神の生贄となって人々を救う事を預言したのだそうです。

ではここで、この聖歌の最初の部分を、ラテン語の原文と典礼聖歌編集部による日本語訳で紹介してみましょう。

 Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
 Miserere nobis.
 神の小羊、世の罪を除きたもう主よ、
 われらをあわれみ給え。

もうおわかりですね。ミレーヌファルメールの歌の間奏で妖しげな呪文(?)のごとく唱えられていたのは、聖歌「アニュス・デイ」の歌詞だったのです。

つまり主人公は、事もあろうに聖体拝領の直前、キリストの身体の象徴たるホスチアではなく「生身の」神の小羊が生贄にされる光景を、(幻覚なのか、はたまた想像力過多なのか…)目撃しちゃったわけですね。

聖体拝領って、言ってみればミサのクライマックスですよ。その直前に血まみれの小羊がバラバラに切り裂かれる阿鼻叫喚地獄絵図が見えちゃったってんですから、そりゃ確かに「異端」ですわなぁ…(笑)。

参考資料:音楽集団アンサンブル・ヴォーチェ「ミサ/レクイエムの式次第 平和の賛歌 (Agnus dei)」

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