Innamoramento / Mylène Farmer 解説(1)



※この解説は、以前、ミレーヌファルメールの日本語ファンサイト Filament de lune に掲載させていただいていた文章を再構成した物です。

1.「イナモラメント」について

 <サビの歌詞原文と筆者訳>
 J'n'ai pas choisi de l'être
 Mais c'est là, l'Innamoramento
 L'amour, la mort peut-être
 Mais suspendre le temps pour un mot
 私は、自分を選ばなかった
 でも、それこそが イナモラメント
 愛とは、おそらく死にも似ていて
 ひとつの言葉に時は止まるの

 Tout se dilate et cède à tout
 Et c'est là, l'Innamoramento
 Tout son être s'impose à nous
 Trouver enfin peut-être un écho
 すべてが拡がり、すべてを捨て去る
 そう、それこそが イナモラメント
 その存在には、誰も打ち勝てず
 最後は、きっとエコー見るのね

「恋と愛とは違うものだよと…」と歌ったのは松原みきの「真夜中のドア」でしたけど、こんな風に日本語には「愛」と「恋」という2つの名詞があり、似て非なるものとして使い分けされます。

でも、欧米語には普通こうした区別はないんですよね。「愛」も「恋」も、はたまた「火遊び」も、全部ひっくるめて「ラブ」とか「アムール」になっちゃうんです。

ところが、イタリア語の場合は少々事情が異なるようで、「アモーレ(愛)」以外に「イナモラメント(恋に落ちる事)」という名詞が存在します。

これは元々文語で、日常会話ではほとんど使われていなかったらしいのですが、社会学者フランチェスコ・アルベローニ (1929- ) が 1979 年のベストセラー Innamoramento e amore (イナモラメントと愛) の中で「アモーレ」の特殊な1形態として大々的にフィーチャーし、以来すっかり市民権を得た模様です。

この「イナモラメントと愛」は世界各国で翻訳され、国際的にもベストセラーとなりました。ちなみにフランス語版の Le choc amoureux (恋する衝撃) では、「イナモラメント」という言葉は2通りに訳し分けられているそうです。

で、その訳語というのが、tomber amoureux (恋に落ちる)と、amour naissant (生成する愛)。…なるほど、アルバム Innamoramento の1曲目が L'amour naissant というタイトルだったのは、実に確信犯的だったのですね(笑)。

さて、このアルバムのリリース当時、ミレーヌファルメールは"イナモラメント"という単語について、こんな風に語っております。

  "J'ai été intéressé par ce mot parce qu'à l'intérieur, il y a amour, il y a mort...
  Autant de choses qui font partie du sentiment amoureux..."
  「この単語に惹かれたのは、アモール (愛) とモール (死) が内在しているからです…。
  実際、この2つは恋愛感情の一部を構成しているのですが、それと同じですね…」

この「イナモラメントの中に、愛と死が含まれる」という発想は、歌詞のサビ部分に、そのまま生かされています…。

もちろん、ここで言う "死" とは、生命活動の終焉ではなく、恋した相手のために "自分" を殺してしまう事でしょう。サビ冒頭の J'n'ai pas choisi de l'être (直訳: 私は、自分の存在を選ばなかった) は、まさにその意味での「死」。純和風に言うと、"つくす" って感覚ですね。

同じ事は、サビの中盤に登場する Tout se dilate et céde à tout (直訳: すべてが拡大し、すべてに譲歩する)にも言えます。

これは、"恋の火種が炎と燃え拡がれば、もう相手の事がすべてで、自分の事などどうでもよくなってしまう"くらいのニュアンスでしょう。直訳だと少々わかりにくいので、拙訳では後半の主語を「私」に置き換え、「すべてを捨て去る」としてみました。

そして、l'amour, la mort peut-être (直訳: 愛、おそらく死)は、言葉遊び。 l'amour (ラムール=愛)と la mort (ラ・モール=死)の発音が似ている事にひっかけ、「愛するって、死ぬ事なのね、きっと」と言っているのです。

続く Mais suspendre le temps pour un mot (直訳: でも、[どちらも] ひとつの言葉のために時を中断する)は、いささか突飛なこの「愛≒死」説を補強する、さらなる共通点でしょう。

もっとも、「I love you」と「ご臨終です」を "ひとつの言葉" としてひと括りにするのは、ちょっと乱暴な気もしますけど…(笑)。

<参考資料>
新評論社 大空幸子訳「恋愛論」
草思社 泉典子訳「恋すること」 ※ともに、Innamoramento e amore の日本版です。

LA MASCARA FRANCE 社 David Marguet 著 Mysterieuse Sylphide (神秘のシルフィード)

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