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Alice /Mylène Farmer 解説(1)



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1.「アリス」と「蜘蛛(アレニエ)」について

 <Aメロ冒頭の歌詞原文と直訳>
 Mon Alice, Alice
 Araignée maltèque
 Mon Alice, malice
 Arachnée hightek
 私のアリス、アリス
 マルテックの蜘蛛
 私のアリス、悪戯
 ハイテクのアラクネ

 <Bメロ冒頭の歌詞原文と直訳>
 Dans ta boite
 Toutes tes pattes
 あなたの箱の中
 あなたのすべての脚

歌詞に malice (悪戯) と boite (箱) が登場するため、私はかねがね、「これって、 une boite à malice (ビックリ箱) の歌かなぁ…でもなんで、そんな子供っぽい題材を?」と、不思議に思っていました。

ところが、現在はなくなってしまった Rêver という海外サイトの解説によると、何とこれ、"ドラッグソング" なんだそうです!もう、ビックリ箱以上にビックリでした。思いきり大人向けの題材だったわけですね…(苦笑)。

確かに同時期の California や後の Serais-tu là? には、その種の表現が頻発していますから、ミレーヌに "そのものズバリ" の歌があったとしても、さほど不思議ではありません(もちろん、本人に実体験があるかどうかは別の話…)。

この曲に特有の気だるい歌唱法も、「いかにも」って感じですしね。

さらに、"ドラッグ" という観点から改めて読み直すと、この歌詞の一見シュールな幾つもの表現が、ことごとく必然性を帯びて見えてくるのです。

例えば、ミレーヌは何故 araignée (クモ) や arachnée (アラクネ。ギリシャ神話に登場する織物上手な娘の名。女神アテネに機織勝負を挑み、敗れてクモに変身させられる。ここではクモの異名)を主役に据え、Alice と名づけたのか?

実はミレーヌが、この曲を収録したアルバム Anamorphosée のリリース当時に移住していたアメリカでは、「クモ」つまり spider はヘロインの隠語としても使われているのです。

今は亡き Rêver の解説は、さらにこの単語が、数人で麻薬を鼻腔吸引する方法を指す事も指摘していました。「クモ」とは麻薬を入れた箱の一種で、吸引用の短いストローが何本も突き出しているのだそうです。

これがもし本当なら、「あなたの箱の中/あなたのすべての脚」の 「脚」は「ストロー」だって事になりますね。

残念ながら、このページ以外で「クモ」がそういう意味を表すとしている資料は今のところ見当たらず、ウラは取れていないのですが…。

これらの「クモ」が「アリス」と命名された理由について、Rêver は何も触れていませんでしたが、これはおそらく、ジェファーソン・エアプレインやビートルズなど、ドラッグソングの諸先輩と同じ発想なのでしょう。

ドラッグの幻覚作用はしばしば、ルイス・キャロルの「不思議の国」に喩えられるのです。

また、この名前と韻を踏む malice (悪戯)は、ちょっとした好奇心で麻薬に手を染めてしまった事の暗示なのかも知れません。

でも、そうすると…。

 <サビの歌詞原文と直訳>
 Comme tu me manques
 私にはあなたが何と不足している事でしょう

は、「あなたがいないと何て淋しいの」という一般的な意味じゃなくて、「あなたがいないと何て "苦しい" の」って事になっちゃいますね。(^_^;

さらに Rêver の解説は、この部分のミレーヌの歌い方に触れ、「絶妙な事に、comme (コム) と いう単語の発音は、came (カム)という別の単語との聞き間違いを誘発させかねない」と指摘していました。

言われてみれば、確かにそう聞こえなくもないんですが、この解釈を取るとアブナサは一気に倍増です。

だって、Came, tu me manques は、「コカインよ、あなたがいないと 苦しい」って意味なんですもん。おいおい、ヘロインだけじゃなかったんかい…。(^_^;;

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Alice /Mylène Farmer 解説(2)



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2.「グアテマラ」と「ハイテク」について

 <Aメロ冒頭の歌詞原文と直訳>
 Mon Alice, Alice
 Araignée maltèque
 Mon Alice, malice
 Arachnée hightek
 私のアリス、アリス
 マルテックの蜘蛛
 私のアリス、悪戯
 ハイテクのアラクネ

歌詞のこの部分に登場する maltèque という言葉は辞書にも見当たらず、ネット検索でも、この歌詞以外には用例がないという極めて特殊な単語です。おそらくミレーヌの造語でしょう。

これについて Rêver は、「ある種の草の入手が困難ではない、地球上のある土地を連想させる」と、何とも意味深な事を書いていました。

これは「グアテマラ」の事でしょうね。「グアテマラの」を意味するフランス語は guatemaltèque で、 maltèque を含む単語では最もポピュラーなのです。

グアテマラは、ヘロインの原料であるケシの不正栽培が盛んな事で知られています。そして、その生産物のほとんどは、アメリカに密輸されているのだそうです。

また、グアテマラに限らず南米諸国は、コカインの原料となるコカノキの原産地。やはり生産物のほとんどは、アメリカに密輸されているそうなんですよ。

ミレーヌは、guatemaltèque の後半部分のみを取り出す事で、「アリスの生まれ故郷」を暗示していたのでしょうね。

一方、maltèque と韻を踏む hightek は、日本語でいう「ハイテク」つまり、「高度な技術」の事。 こちらは「アリスの育った(?)環境」を表していると思われます。

「薬物乱用防止『ダメ。ゼッタイ。』ホームページ」によると、 ヘロインは、ケシの実の樹脂を乾燥させて作ったアヘンから、まずモルヒネを抽出し、それに「化学処理を施して精製する」麻薬との事ですし、コカインこと塩酸コカインも、コカの葉から「化学的に合成する」麻薬だそうですからね。

さて、麻薬の摂取方法にストローで鼻腔吸引するやり方がある事は、先ほど述べました。具体的に言うと、粉末にした麻薬を長さ数センチの線状に置き、それを鼻に差し込んだ短いストローで、一気に吸い込むのだそうです。と、すると…。

 <Aメロの歌詞原文と直訳(続き)>
 Mon Alice, Alice
 Pendue au bout de son fil
 Dépressive l'artiste
 Exit, exit
 私のアリス、アリス
 彼女の糸の端に吊るされて
 憂鬱なアーチストは
 退場する、退場する

ここに登場する「彼女の糸」は、この麻薬の粉のラインをクモの糸に見立てているのかも知れません。「憂鬱なアーチスト」は、このクモの糸に吊り上げられるように "恍惚感" という天国へ導かれ、「憂鬱な」状態から「退場」するのです(なお、Rêver の解説は、この部分を「首吊り自殺願望か?」としていました)。

そして恍惚のアーチストに続いて訪れるのは、

 <Bメロの歌詞原文と直訳(続き)>
 Le black-out
 Petite âme
 ブラック・アウト
 小さな魂

に登場する「ブラック・アウト」。これは本来は「停電」という意味ですが、麻薬の摂取によって引き起こされる「一時的な記憶障害」という意味もあります。

「小さな魂」とはおそらく、"トリップ" というか、"ラリパッパ" 状態の事を指しているのでしょう。もう自分の頭では、何も考えられないわけですからね(笑)。

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Allan / Mylène Farmer 解説(1)



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1.「哀れなる 人形(パペット)」について

 Pauvres poupées
 Qui vont qui viennent, Allan... Allan...
 哀れなる 人形(パペット)が
 ここかしこ行き交う アラン… アラン…

タイトルやAメロのリフからもわかるように、この歌はエドガー・アラン・ポオ(1809-1849)の作品世界がテーマ。中でもはっきり引用が特定できるのは、サビの最終部分の

 L'étrange Ligeia renaît en moi
 De tout mon être je viens vers toi!
 異質なリジーアが 私の中でよみがえり
 私のすべては あなたへと向かいゆく!

に登場する「リジーア」 Ligeia(1838) です。これは、主人公「私」の病死した妻リジーアが、やはり若くして死んだ後妻ロウィーナの亡骸を借りて復活するという怪奇小説なんですよ。

この物語の前半のクライマックスは、リジーアの絶命シーン。重い病の床についた彼女は、数日前に自分が作った詩を「私」に暗誦して欲しいとせがみ、それを聞き終えた直後に息を引き取るのです。

後に「勝利のうじ蟲」 The Conqueror Worm(1843)の題名でポオ自身の詩としても発表されるこの詩の一部を、ここで引用してみましょう。

 Mimes, in the form of God on high,
 Mutter and mumble low,
 And hither and thither fly --
 Mere puppets they, who come and go
 At bidding of vast formless things
 That shift the scenery to and fro,
 Flapping from out their Condor wings
 Invisible Wo!
 道化ども、天なる神の型に造られ
 細々と、またもぐもぐと低く呟き、
 そこかしこ飛び行けり--
 パペットに過ぎぬ身の、彼らは行き交う
 命ずるは、形なき巨大なる物
 そが、あちこちに舞台を移し、
 ハゲタカの翼より放ちゆけるは
「目に見えぬ苦悩」なり! (筆者訳による)

続いて紹介するのは、ミレーヌ・ファルメール・ファンには L'horloge の作者としてお馴染みの、シャルル・ボードレール(1821-1867)による同じ詩の仏語訳。ボードレールは、ポオの作品を翻訳してフランスに紹介した事でも有名なのです。

 Des mimes faits à l'usage du Dieu très-haut,
 Marmottent et marmottent tout bas,
 Et voltigent de côte et d'autre ;
 Pauvres poupées qui vont et viennent
 Au commandement de vastes êtres sans forme
 Qui transportent la scène ça et là
 Secouant de leurs ailes de condor
 L'invisible malheur !
 道化ども、天なる神の為に造られ
 細々と、また細々と低く呟き、
 そこかしこ飛び行けり。
 哀れなる人形の、彼らは行き交う
 命ずるは、形なき巨大なる物
 そが、あちこちに舞台を移し
 ハゲタカの翼より振るい落とすは
 目に見えぬ不幸なり!(筆者訳による)

4行目にご注目ください。ミレーヌは Allan の歌詞の冒頭で、ボードレール訳による「リジーア」の作中詩を、一行丸ごと引用していたのですね。

ところで、ボードレール訳では、オリジナルの Mere puppets (単なる操り人形)が、Pauvres poupées (哀れなる人形)になっているのに、お気づきでしょうか?ボードレールのポオ訳には、しばしばこういう事があるのだそうです。

翻訳家の青山南さんは、エッセイ集「ピーターとペーターの狭間で」で、フランソワ・トリュフォー監督の著作「ある映画の物語」を引用しながら、ボードレールのポオ訳を "離れ技" と評していました。

ボードレール訳でポオを読んでいたトリュフォー監督は、映画「華氏497度」のラストシーンに、「ベレニス」という作品の一節を、どうしても原語で引用したかったのだそうです。ところが、ポオの原書のどの版を見ても、該当するフレーズは出て来ませんでした。

よくよく調べてみると、ボードレールの訳は「ポオの加筆も削除も全部取り入れた独特の混合体で、その結果、ポオのどの原語版にもない文章が入っている」事が判明したのだそうです。仕方なくトリュフォー監督は、ボードレールの訳文を "英訳" させて、映画で使用したんですって(笑)。

でも、この "離れ技" のおかげで、ボードレールの仏語訳は現在、ポーのテキストを研究する上で格好の資料となっているそうですから、世の中何が幸いするかわからないもんですねえ…。

<参考資料>
ちくま文庫 青山南著「ピーターとペーターの狭間で」
新潮文庫 阿部保訳「ポー詩集」
創元推理文庫「ポオ全集1」
Legeia 原文(バージニア大学 American Studies より)
「勝利のうじ蟲」ボードレール訳

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Allan / Mylène Farmer 解説(2)



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2.「死の味」と「夜明け」について

 L'étrange goût de mort
 S'offre mon corps
 Saoûle mon âme jusqu'à l'aurore
 異質な死の味が
 私の身体をうるおし
 私の魂を 夜明けまで酔わせる

サビ後半のこの部分も、やはり「リジーア」にインスパイアされている箇所です。こちらは物語後半のクライマックス、「私」の後妻ロウィーナの死のエピソードにちなんでいます。

重い病に伏せったロウィーナに、「私」は気付けのワインを飲ませようとします。ところが、彼女がワインの杯に口をつけようとした瞬間、「私」は、空中にルビー色の大粒の液体が3、4滴現れ、杯の中に落ちるのを目撃するのでした。

これに気づかずワインを飲み干したロウィーナは、その直後に病状が悪化し、3日後に息を引き取ります。歌詞中の「異質な死の味」は、この "ルビー色の液体" を指していたのですね。

そして、いよいよロウィーナの亡骸を借りて、リジーアが復活するわけですが…。残念ながらネタバレになるため、詳しくは書けません。

ここでは、歌詞の「私の魂を 夜明けまで酔わせる」が、リジーアが夜明けの少し前に復活したのを踏まえている事と、サビのラストの

 De tout mon être je viens vers toi!
 私のすべては あなたへと向かいゆく!

もまた、この物語のラストシーンにインスパイアされている事を、書くだけに留めましょう。この先はぜひ、ポオの本を読んで確認してみてくださいね。(^^;

<参考資料>
集英社文庫 富士川義之訳「黒猫」(「リジーア」を収録)

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Allan / Mylène Farmer 解説(3)



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3.「あなたは今夜死ぬ」と「真紅なるそのマスク」について

 Masque blâfard
 Tu meurs ce soir, Allan... Allan...
 Masque empourpré
 De sang séché, Allan... Allan...
 蒼ざめた そのマスク
 あなたは今夜死ぬ アラン… アラン…
 真紅なる そのマスク
 乾いた血の色の アラン… アラン…

これまで述べてきたように、この歌詞はポオの「リジーア」を下敷きにしているのですが、どうやらそれだけではなさそうです。「リジーア」には主人公「私」が死ぬ場面はおろか、死を予感させる描写すらありませんし、流血の描写は一切登場しませんからね。

従って、歌詞の「蒼ざめたそのマスク/あなたは今夜死ぬ」や、「真紅なるそのマスク/乾いた血の色の」という部分には、別のポオ作品を想定する必要があるでしょう。

「乾いた血の色の」マスクから連想されるのは、やはり「赤死病の仮面」 The masque of the red death (1842) でしょうか? 赤死病とは、黒死病 (ペスト)を モデルにした架空の伝染病で、感染すると全身、特に "顔面" の毛穴から "出血" して死に至るという設定になっています。

また「リジーア」同様、死んだはずの若い女性が棺からよみがえり、最も親しい人物に向かって近づいてくるという設定は、「アッシャー館の崩壊」 The fall of the house of usher(1839) にも見られます。こちらの物語では、彼女の接近は、彼女の最も親しい人物に "死" をもたらしました。

<参考資料>
集英社文庫 富士川義之訳「黒猫」(「リジーア」、「赤死病の仮面」、「アッシャー館の崩壊」を収録)

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